昔の自分に、ひとつだけアドバイスをするとしたら、何を言うだろう?
「よく噛め。」
冗談のようだけど、実はこれ、ものすごく深い。そして今、52歳になってやっと気づいた。噛むという行為が、健康や習慣、そして食べ方そのものを変える“分岐点”だったということに。
人は食べる。1日3回、多い人ならもっと。特に中高年になって代謝が落ちてくると、「何を食べるか」より「どう食べるか」が重要になる。そしてその「どう食べるか」の入口が、“噛む”というシンプルな行為なのだ。

僕もかつては、食べるスピード選手権なら上位入賞確実なレベルで、10回も噛まずに飲み込んでいた。ラーメンなんて5分以内に完食、弁当は秒で消える。お腹が空いているときは特に、よく噛むなんて余裕すらなかった。
でもその結果はどうか?
満腹感が得られずに食べ過ぎる。
消化不良で胃が重くなる。
血糖値の急上昇で眠くなる。
さらに太る。
そしてまた落ち込む…。
このループに、何年もどっぷり浸かっていた。
ところが、「よく噛む」ことを意識するようになってから、すべてが変わった。大げさに聞こえるかもしれないが、本当に「習慣」が変わったのだ。
きっかけは、ダイエット本でも健康本でもなく、自分の身体の声だった。
ある日ふと、「オレって…飲み込むの早すぎないか?」と思った。よく観察してみると、目の前の食事を楽しむというより、“処理”しているような感じがしていた。仕事のメールみたいに、「はい次、はい完了」みたいな。
そして、こんな思考が浮かんだ。

「食べることって、自分と向き合う時間なんじゃないか?」
そこから、「噛む」という行為に意識を向けてみた。試しに、ひと口あたり30回噛んでみる。…これがまた、最初は地獄のように感じた。顎が疲れる、味がなくなる、食事が終わらない。
でも、1週間続けてみると驚いた。
まず、少ない量でお腹が満たされる。
次に、内臓がラクになる。
そして、食べ過ぎなくなる。
さらには、味覚が敏感になって、食材の味を楽しめるようになる。
人間の消化ってすごくよくできている。口の中で唾液と混ざって、しっかり咀嚼されたものが胃に届き、胃はそれをさらに分解して腸に送る。だけど、噛まれていないままの食べ物は、いわば“未処理データ”みたいなもの。胃や腸は「なんだこれ…」と戸惑いながら、無理に処理しようとする。その結果、消化不良や便秘、ガス溜まりなんかも起きてくる。
内臓からすれば、噛むというのは最初のパスだ。まるで駅伝のタスキ。口という“第一走者”がしっかり準備してから、胃や腸という“第二・第三走者”にバトンを渡す。その最初の走者が、やる気ない雑な渡し方をしてたら、後ろがどれだけ優秀でもうまく走れない。
つまり、「噛む」は“株式会社マイボディ”の社長としての大事な仕事なんだ。
あなたの胃や腸は、文句も言わずにずっと働いている。夜中でも、飲みすぎても、油物でも、がんばって処理してくれてる。なのに、ちゃんとした「仕事の渡し方」=咀嚼をしてなかったら、それはブラック企業の経営者と同じだ。
ちゃんと噛んで、よく整った状態の仕事を社員に渡す。
これこそ、ホワイト経営。

ここまで聞いて、「よく噛むこと」がどれだけ体に良いか、少しは伝わったと思う。でも、それだけじゃない。
「よく噛む」と、気持ちが落ち着く。
「よく噛む」と、今この瞬間に集中できる。
「よく噛む」と、食への感謝が湧いてくる。
…もはや、精神的にも良い。
僕は筋トレも習慣にしていて、ゆるトレをベースに体を変えてきたけど、「体重を減らすこと」よりも、「生活全体の質を上げること」が本当の目的だった。食べるという行為は、筋トレよりもずっと頻度が高い。そしてその食べ方ひとつで、体重も体調も変わる。
運動が苦手でも、ジムに行かなくても、サプリが続かなくても——噛むことだけは、今すぐ変えられる。しかも無料で、確実に、誰でも。
中高年の皆さん。
「代謝が落ちたから…」
「若い頃より太りやすくなったから…」

そう嘆く前に、「噛んでるか?」って自分に問いかけてみてほしい。
噛むことを“習慣”にしただけで、食べ過ぎも減って、ダイエットも楽になる。
そして内臓は働きやすくなって、体調が良くなる。
さらに言うと、「噛む」って意外と楽しい。
例えば、ナッツ類。20回くらい噛むと、香りが口いっぱいに広がって、食べた瞬間より美味しくなる。
焼き魚も、皮の部分をよく噛むと香ばしさが際立ってくる。
おにぎりも、よく噛むと甘みが出てくる。
まるで「味の時間差攻撃」みたいに、口の中で味のドラマが展開する。
それって、ちょっとした贅沢だと思いませんか?
噛むことは、自分の体と心に対して「丁寧に接する」ことでもある。
体を雑に扱えば、心も雑になる。逆に、体を大事にすれば、心にも余裕ができる。
そうやって「噛むこと」が習慣になってきた頃、自然と他の生活習慣も変わってくる。早食いが減ると、ゆっくり食べる時間をつくるようになる。テレビやスマホを見ながらの“ながら食い”も減る。食事に意識を向けるようになる。
それはきっと、人生を丁寧に生きる第一歩なんだ。
まとめとして言いたいのは、噛むことは「たかが」じゃない。「されど」でもない。
噛むことは、あなたの身体と心を整える、最初で最大の“スイッチ”なのだ。
今日からでもいい。
次の食事からでもいい。
「ひと口30回」を目標に、噛んでみてほしい。
食べ物の味が変わる。
お腹の調子が変わる。
そして、あなたの体と人生が、ゆっくりと変わっていく。
噛めば噛むほど、未来が整っていく。
そんな実感を、あなたにも味わってほしい。












